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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)832号 判決

主文

原判決を破棄する。

被上告人の請求を棄却する。

訴訟費用は原審当審ともに被上告人の負担とする。

理由

上告代理人坂千秋の上告理由は別紙添付理由書記載のとおりである。

第一点について

論旨は「すエおさんに」と記載された投票の「に」は他事記載であり右一票は公職選挙法六八条一項五号に該当し無効であるというのである。よつて按ずるに候補者氏名のほかに「へ」「〆」「呈」等を記載することは所論のとおり他事記載にあたるものというべく、そしてこのことは大審院並に行政裁判所の屡次の判例で明らかであり、今これを変更する必要もないから本件の「に」について原判決が『敬称として世俗的に「さんに」との称呼を使用することも稀ではないし「に」だけを切りはなして敬称に附記した別個独立の有意の記入と解するのは相当でない』と判示したのは右公職選挙法六八条一項五号の解釈を誤つたものであり、論旨は理由がある。

第二点について

論旨は本件において、成規の用紙を用いない投票であつても該当係員から交付されたものである以上、成規の用紙と認める可く公職選挙法六八条一項一号に該当せず有効であるというのである。しかし本件村議会議員の選挙においては県議会議員の投票用紙はこれを成規の用紙ということはできず、たとえ選挙事務従事者から選挙人が交付を受けたものであつてもこれを用いた投票を有効とすることは許されないものと解すべく、従つてこの点に関する原判決の判断は正当といわねばならない。論旨は理由がない。なお論旨引用の大審院判例は本件に適切でない。

以上のとおり、原判決が被上告人の有効得票に算入した「すエおさんに」と記載した一票はこれを無効とすべく、その他の投票の効力は原判決の判示するとおりであるから、本件選挙における被上告人の得票は一〇二票であり訴外後藤静彦の得票一〇三票より少数である、しからば被上告人の得票数少数の故をもつて被上告人の訴願を棄却した上告人の本件裁決は結局正当であつて、原判決が右両名の得票数を同数であるとして右裁決を取消したのは違法であり破棄を免れない。そして右裁決の取消を求める被上告人の本訴請求が理由のないことも右説明のとおりであるから被上告人の請求を棄却することとし、民訴四〇八条一号九六条八九条を適用し裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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